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不思議な運動会:常磐 誠

 和真君は気がつくと運動場のグラウンドに立っていました。でも不思議なことに、なぜ自分がここに立っているのか、まったくわかりません。そこで、和真君は今の自分の状況を冷静につかみ取るため、辺りをきょろり、きょろりと見渡します。
 そこで気付きます。走るダチョウ、走るキリン、そして一人の女の子。自分のすぐ横でそのダチョウとキリンを見つめ、気合いを入れているペンギンとこれまたキリン。
 この時点で冷静かつ頭の良い和真君は気付きました。あぁ、これは夢だな、と。
 だってあり得ないじゃないですか。小学校の運動場でダチョウとキリンと女の子が走っていて、しかも動物なのにリレーのルール――例えばバトンを持ったまま走るとか、グラウンドに描かれた線の通りに走らないとダメ、とか――を完全に理解し、守っているなんて。
 さてさて、なぜ自分がこんなへんてこな状況に置かれているのか、これから自分がどうすれば良いのかを和真君が考えていると、隣でペンギンさんが唐突に、
「和真君。これは夢じゃないよ」
 と話しかけてきました。和真君ビックリ。
「うわ! 動物がしゃべった!」
 そう言うと、キリンさんも話に乗ってきました。
「何を言っているんだい、和真君、君だって動物じゃないか! ハハハ。そしてこれは本当に夢じゃあないんだよ」
 笑いながらキリンさんも言いますが、到底信じられません。何せ和真君が去年学校の遠足で行った動物園のペンギンやキリンは一切しゃべらず、和真君をはじめとした人間を見つめたり、興味なさげにエサを食べたりしているだけだったのですから。
「いやいや、ウソだよ。絶対。いや、確かに人間も動物だけど……。いや、でもあり得ないって!」
 混乱した和真君がそう言いますが、ペンギンさんもキリンさんも引きません。
「いやいや、和真君、君は大人の言うことを真に受けすぎているんだよ」
「そうそう。キリンさんの言うとおり! キリンさんは良いことを言う!」
「いやいやいや……」
「和真君はいやいやって言うのが好きなんだねえ」
「そうそう。キリンさんの言うとおり! キリンさんは良いことを言う!」
「いやいやいやいや。……あ」
 言われているそばから2セットもいやいやと言ってしまった和真君ですが、
「あり得ない……。こんなのは、絶対にあり得ない……!」
 まさしく混乱の極み、という感じになってしまっていました。
 さて、このリレーなのですが、どうやら二人――二匹、の方が良いんじゃないの? と聞いたら、
「君は常識に捉われ過ぎだ」
「そうそう。キリンさんの言うとおり! キリンさんは良いことを言う!」
 と怒られました――の話を聞いていると、自分はアンカーのようです。その証に、和真君の右肩には、キリンさんやペンギンさんの右肩に掛かっている物と色違いのタスキが掛かっています。
「あ、これアンカーの目印だったんだ」
 そんなことを和真君が一人つぶやいたちょうどその時、リレーの暫定トップであるダチョウさんが駆け込んできます。口ばしに持つバトンの色はペンギンさんのタスキの色と同じ色。
「それじゃ、あっしはお先に!」
 ペンギンさんはスタートダッシュ! ダチョウさんから実にベストな位置でバトンを受け取るとそのまま勢いに任せて走り出します。
「かずま! 後は頼んだぞ! 負けたら蹴り飛ばすからな!」
 ダチョウさんに遅れて女の子がやって来ます。その口からは結構物騒な言葉が出てきましたが、スルーしましょう。……ところでこの女の子、さっきは結構距離があって顔がよく分からなかったのですが、どうにも和真君と顔見知りのようです。というかこの口調は、和真君のよく知る女の子の声でした。
「え? 美鈴? 美鈴も走ってたの?」
 そう。美鈴ちゃんでした。和真君と生まれたころから一緒にいたくらいの幼馴染、美鈴ちゃん。幼馴染が走っていることくらい距離があっても気付けって? 和真君はそれどころじゃなかったんです。許してあげてくださいお願いします。
「んなことどーでも良いからとっとと行けーッ!」
 負けず嫌いの美鈴ちゃんに叫ばれ、結果が出る前から蹴り飛ばされるすんでのところで和真君は走り出しました。とりあえずバトンを受け取ったからには走らないといけないんです。和真君も空気読めてます。子どもなのにね。褒めてあげてください。まぁ、欲を言うならば、バトンを受け取るのはあともう少し走って自分に勢いを付けてから、がベストなのですが。
 さて、キリンさんですが、やっとバトンを持った走者がやって来ました。来ましたが、今流行りの熱中症にでもかかってしまったのか、もはや走ってすらいません。それでも"走者"かッ! とかそんなスパルタなこと、もちろんキリンさんは言いません。それは今の時代犯罪行為とも取られます。危険です。
 そんな優しいキリンさんは、自分にとって不利になることも全て承知した上で、わざと自分に勢いを付けず、バトンを受け取るラインの一番手前でバトンを受け取ったのです。そして、
「後は私に任せるんだ!」
 と格好の良い一言も忘れません。俺 と や ら な い か ?
 げふんげふん。さておき、アンカー勝負となった白熱リレー。キリンさんが速い! 和真君がテレビで見たキリンさんはもっとゆったりのんびりしているように見えたというのに。
 でも実際キリンさんは速いんです。時速50kmくらい出ます。加速性は悪いけれど、時速50km。大自然なめんなよ。
 そのスピードでペンギンさんも和真君も追い抜かれてしまいます。その時でした。
「がぁっ!」
 ズコーーーッ! ペンギンさんは自分も負けじと勢いをつけようとしたところで、転んでしまったのです。立ち起こる砂煙。転がるバトン。その瞬間。
 わあああぁぁぁぁー! ペンさん! 頑張るんだー! ヤマナミさん! ファイトー! か・ず・ま! それか・ず・ま!
 という周りの応援の歓声が聞こえました。和真君は、周りにこんなにたくさんの人や動物たちがいることに、今やっと気付きました。ペンギンやキリン、そして人間だけでなく、ネコ、キツネ、タヌキ、更には最前列にチーターまでいるではないですか。万物ビックリショーもビックリというなんかよく分からん表現が常磐の頭を過ぎったんですがまぁそれはどうでもいいですねそうですね。
 しかも人間の方はとよくよく見ると、何と和真君のクラスの友達ばかり。チーターの横には、さっきまで走っていた美鈴の姿も。速いねぇ、美鈴ちゃん。
「ほら! お前らももっとちゃんとかずまの応援してやれ! しないと蹴り飛ばすぞ! そっれか・ず・ま!」
 さっきから美鈴ちゃんは蹴り飛ばすぞを連発しているようですがきっと口癖ですねそうですね。男子も一人その剣幕にタジタジしてますが、とにかく応援席の皆はアンカーの応援に必死なのです。
 その必死さは和真君にも伝わりました。少しだけ前を行くキリンさん――たしかヤマナミさんでしたね――を見据え、走る勢いを強めます。ヤマナミさんは、今までの時速50kmランのせいで体力を消耗し、疲れを見せています。チャンスです。
 そんな時、後ろで転んでしまったペンギンさん――その名はペンさん。そこ。単純とか言わない――は、
「あっしは、あっしはこんなところで負けてはいられないのです!」
 と目を光らせます。すごいガッツです。たぶんこの文章がマンガだったら、ここから回想シーンが入ります。
 例えば応援席に居て、ペンさんを熱烈に応援している彼女とのラブラブな誓いのシーンとか。ポンポンを持って応援してくれている仲間達との熱い熱い友情とか。
 けどこれはマンガじゃないんで入りません。そういうのは勝手に想像してください。いや、別に面倒臭いとかそういうんじゃないんです。断じて。
 あぁっと! なんということだ! ペンさん! バトンを口ばしにくわえ、腹ばいになって地面を滑ります! とんでもないスピードです。
 それを見て俄然応援席は盛り上がります! 熱烈応援のペンさんの彼女は、
「ンッキャアァァァァアァァァアァー! ペン様ぁぁぁぁぁぁぁーーー!」
 と高音響で叫びをあげ、周囲からの注目を集めます。高周波もついでに発生。恐らく周囲の動物何人か担架で医務室行きになってます。その傍、最前列で見ていた、あ、ついでにペンさんの彼女の高周波なんか全く効かなかったやべぇ強さのチーターは、痛めた左前脚を見つめながら、一人静かに、ただ、熱く、
「良かった……。私のせいで負けると思っていたこのリレーも、まだ希望はある!」
 そう思い、また顔を上げてペンさんに叫び声にも似た声援を送ります。つかアンタこの惨事を目の当たりにしときながらすげえな。
 最下位確定かと思われていたペンさんがキリンさんの足元を滑りぬけ、口ばしを必死に前へと押し出す時、和真君の足元はゴールラインに入ります。ヤマナミさんも、負けてはならぬ、熱中症でダウンした仲間のためにも! そんな回想シーン(省略)の後に思い切った前傾姿勢を取り、頭を必死にゴールラインへと向けます。

 ワアァァァァァァーーーーー! 

 そんな大声援の中、三人はゴールしました。その僅差のあまり、無駄に最新鋭の写真判定を行うことになったのですが、その結果、和真君のトルソー部分、ペンさんの口ばし、キリンさんの口が全て横並びであったことが判明しました。
 ちなみにトルソーっていうのは胴体のことを指します。テストに出るよ。うん。リアルに。中学校の体育の試験辺りでほぼ確実に。感謝は常磐にどうぞ。
 と、いうわけですので、
「全員1等賞!」
 というアナウンス。
「えええええーーーーー!」
 大盛り上がりを見せる応援席とは裏腹に、和真君はそんな風に叫びました。
「おや、何か不服なのかい? 和真君」
 ヤマナミさんがそう聞くと、
「いや、だってリレーってのはトルソー部分で決まるんでしょ? 二人ともトルソーじゃないじゃん!」
 和真君がそう言うと、ヤマナミさんとペンさんは、やれやれ、といった感じで肩をすくめると、
「和真君、君は相変わらず常識に捉われ過ぎだ」
「そうそう。キリンさんの言うとおり! キリンさんは良いことを言う!」
 そう返されました。
「え、じゃあぼくは靴が一番先にゴールラインに入ってたと思うけど」
 そう反論すると、
「人間の和真君にのみトルソーのルールが適用されます」
 とアナウンス。
「えー」
 もうこれには和真君も言葉がでませんでした。
「まぁ、これで皆が1等賞なんだ。君も私も、そしてペン君も一番なのだよ。文句を挟む必要などあるまい。そうは思わないかい?」
「そうそう。キリンさんの言うとおり! キリンさんは良いことを言う!」
 それが理解できないではないけれど、ちょっとだけ納得いかない和真君はついにペンさんにさっきから思っていたことを言います。
「うん。そうだね。でもペンさんさっきからずっと同じことしか言ってないよね」
「気にしたら負けだよ」
 ペンさんの反応は実にあっさりとしていました。いろいろと複雑な気もしましたが、和真君は不思議と、まぁ、それでも良いか。と思えてきました。
 紙吹雪が舞う中、ヤマナミさんとペンさんと和真君は表彰台の上に並びます。3人とも、1等賞。一番高い場所。首から下げられる金メダルを見ると、とてもとても誇らしい気持ちになりました。
「ところでペンさんお腹に怪我とかしてない?」
 和真君が一人照れまくっているペンさんに聞くと、
「優しいんだね。和真君。でも大丈夫さ。……いつまでもそんな優しい和真君でいてね」
 そう言われました。その後、ヤマナミさんも、
「そうそう。いろいろあったが、君のおかげで楽しい運動会だった。和真君、いつまでも、そのままの君でいてくれよ。……本当に、ありがとう」
 そんなことを言ってきたのです。まるで最後のお別れのようではないですか。急に寂しくなった和真君ですが、和真君の意識は、そこでフッと途切れてしまうのでした。


「和真ーっ! いつまで寝てるの! もう夏休みも終わるのに。そんなお寝坊さんじゃダメでしょう!」
 お母さんの怒鳴り声で、和真君は目が覚めました。やっぱり、夢だった。和真君は起きたばかりの頭でそう思い、とりあえず身支度だけ急いで整えました。
 朝食を食べる席で、和真君は口を開きます。
「今日、夢を見たんだ」
「へぇ。だから寝坊したって?」
「まぁ、そういうことにしておいてよ」
「で、どんな夢だったの?」
「うん。……えー、と」
「何?」
「いや、よく覚えていないんだ。何でだろう? でも……」
「でも?」
「なんだか、楽しかったな、って」
「そうね。楽しかったんでしょうねぇ。腰にバトンを刺して、肩にタスキ掛けて朝ごはん食べているんですもの」
「……へ?」
 そう言われた和真君は慌てて腰と肩を触りました。間違いなく今日の朝、身支度を整えていた時にはなかったはずなのに、今は確かに存在感をひけらかしています。腰にはバトン、右肩にはタスキ。
「えええええええええーーーーーーッ!」
意味がわかりません。いやいやいやいや、とまたもいやいやを繰り返す和真君に対し、お母さんは、
「いや、いやは良いから、あと、うるさいから。ほら、さっさと行ってらっしゃい!」
 お母さんは和真君をさっさと追い出します。和真君は腰のバトンと肩のタスキを外す間もなく、行ってきます! という言葉を何とか口にして、外に出ました。すると、なんということでしょう! (えぇ。ツッコミ待ちですが何か?)
 そこには、
「ヤマナミさんおはよー!」
「やぁ。君も早いね」
 そんな会話を爽やかに交わすキリンが二人。
「ペン様!」
「ペンコ!」
 道の往来でキスを交わすやっべぇバカップルペンギン二人。つかお前ペンコって単純にもほどがあんだろ。マジで。
 そしてそして更にはその中で、動物達の溢れる動物園状態の道路の中で、
「おはよう。和真」
 そんな風になっていることが当たり前のようにあいさつをしてくる美鈴ちゃん。和真君思考停止。思考停止。えまーじぇんしー。
「え? はい? え? えぇ?」
「おいどうした? 和真? おい、和真?」
 美鈴の声も和真の頭に入ってきません。
「ええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーッ!」

 そんな風に和真君は叫びだしてしまいましたとさ。ちなみに和真君が今でもしているタスキの裏には文字が書かれています。

 驚いた? いらっしゃい! 不思議な不思議な、僕達の世界へ!

                             (了)

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