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参加者によるブックガイド

 

以下は、『若い小説家に宛てた手紙』で説明されている様々な技法や、それらの変形・応用に当たる技法が用いられている小説(またはそれらが紹介されている書籍)を、読書会の参加者であるイコ、6、プミがそれぞれの視点・読書経験をもとに挙げてみたものです。

 

読書会で実際に紹介できたのは、これらのうち一部でしたので、改めてここに掲載することにしました。

 

・小説の内容や、どのような技法が使われているかを、140字程度で紹介しています。

・タイトルをクリックすると書籍の情報のページ(Amazonなど)に飛びます。

 ※が付いているものは、現在絶版のものです。

・【 】は『若い~』の、どの項目と関係するかを示しています。直接関係のない書籍

 の場合は【その他】となっています。

・紹介者の略号は右の通りです。(イ)=イコ (6)=6 (プ)=プミ

 

『若い~』で紹介された数々の本とともに、これからの読書に少しでも役に立ててもらえればありがたいです。

 

 

 

『野火』/大岡昇平

太平洋戦争時、わずかばかりの食糧とともにフィリピン戦線を離脱させられた田村の足跡をたどる。極度の飢餓のなか、田村は、人肉を食べるかどうかという、極限の選択を迫られる。「われわれ人間とはどのような生き物なのか?」という問いに答えようとする小説である。(イ)【サナダムシの寓話】

 

『ひかりごけ/武田泰淳

大戦当時実際にあった事件を題材に、北海の洞窟に閉じ込められた船長や船員がたがいの肉を食うかどうかで煩悶する話である。「野火」とは異なる結果を迎えるが、やはり同様に「われわれ人間とは?」と、存在の根源を突きつける作品になっている。いずれも現実ととりかえるというよりも、現実への疑念をあぶり出す。(イ)【サナダムシの寓話】

 

『アフリカの印象』/レーモン・ルーセル

牛の肺臓でできたレールを走る彫像、チターを奏でる大ミミズ……。前半で数々のシュールなイメージが炸裂し、後半でその種明かしがされる(これが最高に面白い)のだが、実はこの小説、日本語訳では分からないとてつもない文法規則に則って書かれているのだ。作家の強靭な精神による作品。これぞ文芸。(プ)【サナダムシの寓話・カトブレパス】

 

『死の棘』/島尾敏雄

夫の情事によって妻が豹変、狂乱状態になった妻が夫をひたすらに糾弾していく。平穏だったはずの家庭は、一気に混沌のなかに投げ込まれ、戻ってくることはない。読者はテーマに選ばれた作家の喘ぎをただ嘗め尽くすように読むだけだ。(イ)【カトブレパス】

 

『告白』/町田康

河内音頭で歌われる実在の大量殺人事件“河内十人斬り”に材をとり、主犯の男の人生を描ききる。あらゆる部分が、町田康でなければ絶対にこうは書けなかったと思う。個人的には、それ以外になぜだか何も語れない。『若い~』で“内容と形式は本来分けることができない”と読んで、思い出した作品。(プ)【カトブレパス】

 

『重力の都』※/中上健次

路地に生きる様々な男と女のすがたを、著者独自のうねりのある文体を十全に発揮して仕上げた連作短編集である。路地に発生するいくつもの物語が、路地そのものとなって、大きな一つの雰囲気を帯びて読者の前にあらわれる。次々に追いかける対象の変化する連作とは、一種の通底器ではないか。(イ)【語り手。空間・通底器】

 

『ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語』/ゾラン・ジフコヴィッチ

ユーゴスラビアの作家の短編集。その中の『ティーショップ』という作品。旅する女性が偶然入った喫茶店で物語のお茶を頼む。一口飲むたびに店員や他の客が交代で語り手となり、一繋がりの物語を紡いでいく。お茶を飲み終わった時=物語が語られ終わった時、女性はどの現実的平面にいるだろうか。(プ)【語り手。空間・現実のレヴェル】

 

『笛吹川』/深沢七郎

笛吹川の袂に建っている家の数代の記録を中心に、時代に翻弄される農民たちの姿を淡々と描く作品である。深沢七郎はひとりの人間を感傷的に描くことはない。ここでは生も死も当たり前に描かれる。時間は水の流れるように、ただ流れていく。(イ)【時間】

 

『空港にて』/村上龍

時間が凝縮されている。われわれの体感する一秒が、小説の中ではためらいもなく引き伸ばされているのだ。コンビニ、居酒屋、空港といった場所にいる人間の、ある瞬間の思考と行動を切り取る。時間を操るとはどのようなことか知りたければ、この「方法」にこだわった作品が参考になるだろう。(イ)【時間】

 

『小説、世界の奏でる音楽』/保坂和志

「小説を書く」作家の経験を追体験しているような興奮を覚える本書で彫刻家の若林奮氏の文章(「境川の氾濫」)が紹介されている。「ドシャ降りの雨で満たされた空間を書いた文章」を保坂は「時間そのものが視覚化されたようだった」と評する。風景描写によって時間を表現する好例と見ることができる。(6)【時間】

 

『タタール人の砂漠』/ディーノ・ブッツァーティ

前方に砂漠の広がる辺境の砦に、若い将校が派遣される。砂漠の遥か彼方から敵が攻めてくるのを、見張りながら待ち受ける日々。肝心な事が起こりそうで起こらない、長い歳月を描くことによって、スピーディーに展開する終盤のエピソードの悲痛さが何倍にも増す傑作。これが人生なのだろうか。(プ)【時間】

 

『スローターハウス5』/カート・ヴォネガット・ジュニア

主人公は過去、現在、未来を、自分の意思とは無関係に移動する。幸せな結婚生活を送っていたり、異星人に誘拐されたり、第二次大戦でドイツ軍の捕虜になり、収容所で味方の連合軍から無差別爆撃を受けたり……。作家が実際に体験した、ストレートに書くことができない程の戦争の壮絶さ。映画版も傑作。(プ)【時間・カトブレパス】

 

『キャッチ=22(上・下)/ジョーゼフ・ヘラー

舞台は第二次大戦下のイタリア、不条理な軍規のおかげで延々と爆撃を繰り返さねばならない米空軍兵たち。その混乱と狂気を、年代記的時間の解体によって強調している。主人公の心に影を落とす戦友の死の意味は、最後まで明かされない。極限の人間たちが数々の奇行を繰り広げる、抱腹絶倒の大作。(プ)【時間・隠されたデータ】

 

『緑の家』(上・下)/マリオ・バルガス=リョサ

並はずれた行動力をもつ日本人、盲目のハープ弾き、貧民街の不良たち、娼婦、砂漠に君臨する「緑の家」。入れ替わる視点、積み上げられた細部により徐々に全体の明らかになっていく構成、一筋縄でいかぬ登場人物たち。形式について語る著者の文学観が十全に表れた長編。(イ)【時間・通底器・隠されたデータ】

 

『枯木灘』/中上健次

紀州を舞台に、肉体労働を至上のものとして打ち込む秋幸青年の、血にあえぐ姿を描く、著者の代表作である。同じ秋幸を語る芥川賞受賞作「岬」において、まだ物語は私小説に過ぎなかったが、本作によって中上健次は、神話的性格を帯びた土地を描く作家へと変貌した。(イ)【現実のレヴェル】

 

『エペペ』/カリンティ・フェレンツ

言語学者の主人公が飛行機に乗り間違えてたどり着いたのは、彼の知識をもってしても皆目分からない言語を操る人々の街。あらゆる場所にいら立つ人々がひしめき、コミュニケーションを取るのは不可能だ。ややあざとい舞台設定ながら、主観的世界を通して圧倒的な不条理を描いた作品。Fromハンガリー。(プ)【現実のレヴェル】

 

『西瓜糖の日々』/リチャード・ブローティガン

ほとんどの物が西瓜糖でできた村。村人たちが集まる、変化する場所アイデス。村のあちこちにある彫像。川底に沈む墓。日によって色の違う太陽光。かつて栄えた、人語を話す虎たち。一部の者だけが出入りする「忘れられた世界」。この小説の幻想世界は、現実の何かの象徴などに回収できない魅力がある。(プ)【現実のレヴェル】

 

『エドウィン・マルハウス』/スティーヴン・ミルハウザー

11歳で死んだ天才作家エドウィン。同い年で共に人生を過ごした友人が、その伝記を書いた(執筆当時11歳!)。この小説はこの伝記そのものであり、作者(ミルハウザー)の立ち位置は隠される。つまりこの小説はいわば作者の入れ子構造により、子どもによる子どもの世界という平面が保たれているのだ。(プ)【現実のレヴェル・語り手。空間】

 

『風の道』/恒川光太郎

少年二人が好奇心で入ってしまったその古道は、現実に近く、それでいて現実とたしかに隔絶された道だった。主人公の歩みによって時間の進行が如実に伝わる作品。日本ホラー小説大賞出身でありながら、現実と幻想の交歓をきわめて落ち着いた筆で描く作家であり、作品には人間と世界の姿が刻まれている。『夜市』所収。(イ)【現実のレヴェル・時間】

 

『ゴロド』/恒川光太郎

ゴロンドという謎の生き物が誕生するところから始まるこの小説は、現実など簡単に飛び越えているのだが、その生き物の成長を著者特有の「時間」の表現によって、つぶさに追っているために、ただの異世界譚と読むことができない。『竜が最後に帰る場所』所収。(イ)

【現実のレヴェル・時間】

 

『ユニヴァーサル野球協会』※/ロバート・クーヴァー

冴えない会計士の男は帰宅後、ある世界の神になる。それは、サイコロの目と自作の表で、試合結果や選手の性格などあらゆることが決まる野球ゲームの世界。だが将来有望な選手に起きた大事件を機に、会計士の“世界”は狂い始める。ラストの転移に注目。下敷きには『創世記』があるのだとか。(プ)【現実のレヴェル・転移と質的飛躍】

 

『恐怖の兜』/ヴィクトル・ペレーヴィン

小説のネタとしては新しいネット空間を描く際に、ミノタウロスの神話を軸にすることによって成功している。アリアドネの存在を頼りにテセウスを待ち続ける奇妙なHNを持つ登場人物たち。この不気味さに好奇心を覚えない読者はいないだろう。端的に言ってこれほど「面白い」小説を私は他に知らない。(6)【現実のレヴェル・入れ子箱】

 

『魔術師』(上・下)※/ジョン・ファウルズ

エゴイスティックな主人公が移り住んだ島には、不思議な老人が住んでいた。老人とその女に惹かれていく主人公に奇妙な出来事が起こり始める。彼はそれが老人の手による作り物だと分かっていたはずなのだが……。現実的平面が大きく揺れ動く、大変面白くて奇妙な作品。結局、何だったのかは不明なまま?(プ)【現実のレヴェル・隠されたデータ】

 

『城の崎にて』/志賀直哉

電車にはね飛ばされて怪我をした主人公が養生に訪れた温泉街で、動植物の生死を見つめる体験をする。志賀直哉の中期代表作のひとつとして名高いが、当時の作者の迷いがそのまま作品に反映されているようである。温泉宿から離れる道筋を、現実か、それとも幻想ととらえるか、解釈の分かれる作品である。(イ)【転移と質的飛躍】

 

『ゴルディータは食べて、寝て、働くだけ』※(単行本未刊)/吉井磨弥

ぽっちゃり専門のデリバリーヘルスにつとめる理子は、働きながら、ものすごい勢いで食べ、太っていく。理子の買ったもののレシートが小説には添付されている。状態の進行が読者の眼前に、理子の体重というきわめてわかりやすい姿であらわれる作品であり、量の転移が起こっていると言える。『文學界』201012月号所収。(イ)【転移と質的飛躍】

 

『癌だましい』/山内令南

食道癌に冒された女性は、食べることに喜びを見出して生きてきた人間である。しかし癌を宣告され、喜びのもととなる食事を封じられる。封じられてなお、求めるままに食おうとする人間と、相反して減っていく体重、進行する病気により、リョサの言う転移が非常に分かりやすい作品である。(イ)【転移と質的飛躍】

 

『私のいない高校/青木淳吾

どことも知れぬ高校の青春の一ページを垣間見ているようだ。だが、だれを軸に物語を読み進めていけばいいのか分からず、戸惑いを覚えるかもしれない。ともすると退屈な日常が延々と続き、何が面白いのか分からぬ中で……ふと夢中になって文字を追っている自分を発見する。この面白さは何だ!?(6)【転移と質的飛躍】

 

『蜘蛛女のキス』/マヌエル・プイグ

獄中で、シネフィルのホモが映画の詳細を語り続ける。それを聞くのは若いテロリストの男。作中作である映画のストーリーが、二人の登場人物の運命を暗示する。その他、語り手の設定(セリフのみで地の文がない)、テクストのコラージュなど、数多くの技法が前面に出た巧緻な作品。かつロマンティック。(プ)【入れ子箱・語り手。空間】

 

『個人的な体験』/大江健三郎

鳥(バード)という青年のもとに第一子が誕生する。しかしその赤ん坊は頭部に異常をもっていた。鳥は現実から逃げ出し、水面下での闘争の日々を過ごす。鳥が決断する結末部が議論になった作品である。(イ)【隠されたデータ】

 

『本気で作家になりたければ漱石に学べ!』※/渡部直己

誰よりも小説を愛し、作家たちへの辛辣な言葉も躊躇わない批評家の漱石における小説技術の紹介。「第10章 比喩の活用Ⅰ」、『それから』の「構造的比喩」の紹介は、『若い小説家に宛てた手紙』の「通低器」のエピソードレヴェルから転じて言葉のレヴェルでの応用編と捉えることもできる。(6)【通低器】

 

『ゴッドファーザー』(上・下)/マリオ・プーゾ

映画版パートⅠの冒頭、結婚式を軸に、同時に起こっているファミリー(コルレオーネ一家)のさまざまな行動が描かれており、かなり典型的な通底器の役割を果たしている。原作もそうだったか忘れてしまったが(すいません)、もしそうでなくとも群像劇の傑作として一読の価値がある。映画とともに。(プ)【通底器?】

 

『新潮』201111月号「私の小説作法(講演録)/マリオ・バルガス=リョサ

リョサ氏が今年6月に来日した際の講演その1at セルバンテス文化センター東京)。彼の著作のいくつかについて、創作の背景や、どのような技法を取り入れたかなどを紹介している。己の創作の過程と比較してみてはいかがだろうか。(プ)【その他】

 

『すばる』201110月号「文学への情熱ともうひとつの現実の創造」(講演録)/

マリオ・バルガス=リョサ

講演その2at 東京大学)。最初は、文学とは何か、どんな役割を果たすのかなど『若い~』の前半と近い話。そしてリョサ氏の創作に決定的に影響を与えた、若き日のアマゾン調査のエピソードが語られる。この話は他の本でも読めるが、彼に興味があるなら必読の内容。また質疑応答では詩についての話も。(プ)【その他】

 

『小説の技巧』/デイヴィッド・ロッジ

イギリスの小説家による、小説の技巧の紹介。数々の作品を挙げながら、50の技巧(リョサとは分け方が違う)について説明している。もう少し“形式”の方に踏み込んでみたい入門者向きの本。海外(英米)文学のブックガイドにもなる。(プ)【その他】

 

ヨーロッパ文学講義※/ウラジーミル・ナボコフ

ここにも小説について考え抜いた作家がいる。取り上げられるのは、オースティン、ディケンズ、フローベール、スティーヴンソン、そしてプルースト、カフカ、ジョイスの作品。精緻きわまる分析。入手しにくい本だが、ぜひ読んでほしい。姉妹編で『ロシア文学講義』というのもある。(プ)【その他】