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朝靄の食感:崎本 智(6)

薄黄色の生地が樹木の年輪のように幾層にも重ねられたお菓子、バームクーヘンはわたしのお気に入りの洋菓子のひとつである。わたしはあのデパートなどで販売されている小さく切り取られた個包装の上品なおいしさも勿論愛してやまないが、それ以上に魅力的なのはやはり大きな切り株のようなバームクーヘンにまるごとかぶりつく瞬間である。生地は湿度を保たなければぱさぱさになってしまうから常に冷蔵庫の中でしっとりとした感触をのこしておくためにも厳重に管理せねばならない。かぶりついた瞬間のあのしっとりとした朝靄のようなうるおいに満ちた生地の感覚がなければバームクーヘン体験は魅力を半減させてしまうだろう。

子供の頃はショートケーキやチョコレートケーキが好きでバームクーヘンという存在はケーキ界のなかでもどちらかというと二軍に在籍するような冷たい眼で見ていた。ところがだ。生クリームやフルーツ、はたまたチョコレートの記憶さえ舌から忘却を許してしまうほどに二十代後半にさしかかったころからこの朝靄の食感のケーキが大好きでたまらない。噛めば噛むほどに重ね焼きされた弾力に歯が喜び、舌が次の味を待望していくのはまさに癖になる美味しさといって過言ではないだろう……。