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ピザまん:あんな

一度だけ親のお金を盗んだことがある。

小学校一、二年生の時だったと思う。寒かろうが雪が降ろうが外で狂ったように遊びまくっていたのだが、その日は特別寒くて鼻水垂らしながら足をぶるぶるさせてなおも遊んでいたのを覚えている。小学生の頃を思い出すとなぜあんなにも寒さや暑さに強かったのだろうと思う。今よりももっと暑さも寒さもマシだったのかもしれないけど、それを差し引いても真冬にジャンパーも着ないでマフラーもせずへらへら走り回っていたのだから冷えが最大の敵となった三十代の今、信じられない装備である。でもよく考えたら授業が終わると暖房の前に張り付いて冷えた手を通風口に当てすぎて火傷したり、毎年足の指先全部しもやけになったりしてたからきっと普通に寒かったんだろうが今の小学生みたいな立派なダウンとかそんなん誰も着てなかったと思うし、一年通して半袖半ズボンの子とかクラスにいて平気な顔してたからたぶん寒さを感じる神経がまだ未発達だったんでしょうね。話が逸れました。

それでその日もなりふり構わず遊んでいたわけなんだが、ふと、これはまじでいくら風の子でもわりと寒いな、と思ったのか遊ぶのもやめてベンチに座り込んでしまったのだ。一度座ってしまうと人間というのは一気に冷えるんだろう。友達と二人震えながらベンチに座っているうち、あることが脳裏を彗星のごとく駆け抜けていった。それが、ピザまんである。「ピザまん、食べよう」と私が言うと友達が「どうやって?」みたいなことを言ったと思う。当然お金なんか持っていないのだし、お腹が空いたら家に帰るしか選択肢はないはずだった。「ちょっと待ってて」と言い残し颯爽と私は友達を残し走り去った。今から思い出すとただピザまんを食べたい、という未知の衝動に駆り立てられるあまり、肉体精神が追い越しナチュラルハイの状態になっていたのだろう。共働きの両親が帰ってくるまでには時間があったので家には誰もいなかった。首から下げた鍵でドアを開け中に入り、母の買い物用の財布が引き出しに入っているのを確認すると手にとってから中を見た。なんかお金の種類とかまだよくわかんなかったので紙の方なら間違いないだろう、と考えたのかピザまん買うだけなのに五千円札を引っ掴んでポケットに入れた。その時のことは鮮明に覚えている。大変なことを今やってしまっているんだ! と自分に酔いながらも、心臓が飛び出るほど緊張していて、警察に捕まったら学校に行けないな、などと考えたりもしていた。小学生にとっては凶悪犯罪を犯している、という感覚だったのだ。

ベンチに戻ると友達はお前正気か?みたいな目で座っていた。私は任せとけ、みたいな感じで友達を残したままヤマザキへ駆け込んだ。「ピザまんふたつ」と言った自分の声がやけに大人びて聞こえた。予想外のお釣りの量に若干慌てながらもなんとかピザまんを購入し友達の元へ戻ると、こいつまじか、みたいな目で友達が座っていた。芯から冷えきった体に熱々のピザまんが摂取されていく。とにかく今まで食べたどの食べ物よりも美味しく、感動で震えた。二人して無言で食べたのを覚えている。それから親の見ていないところでお釣りをささっと財布に戻すと完全犯罪は成功した。大人になってから、実は一度だけ盗んでピザまん買ったんだよね、と母に言うと、へえ、と一言言われた。歳とったので今はまんが好きです。