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透明:新嶋樹(イコ)

 

角を曲がっていくたびに

少しずつ透けていく身体

 

(色を吸って

 地上に落ちた雨粒が

 逆再生のように

 空へ還っていく夢)

 

どの街のどの地点にも

見えない場所がある

誰かの塀に区切られている

 

角の向う側から

みな手招きされているのだ

すっかり透明になってしまった人の手に

 

(雨粒は光を弾き出し

 地上の色いろを吐いて

 空へ 加速してゆく)

 

身体が薄くなっていくたびに

目は冴えて視野は広がり

世界との関係を知る

 

やがて輪郭はうしなわれ

人ひとり分の容れ物の中味が

すっかり漂い出してしまうと

 

まなざしは

熱いかなしみの粒になる

 

(鳥たちが落ちていく

 上昇する雨粒に

 横っ面をうつして)

 

化学物質と黄色い砂の嵐のなか

戦闘機の飛び回るビル群のふもと

高速道路の閉塞した動脈の裏で

 

隠れ処は、

見つからない場所はと探す

まだ肉の臭いのする人

 

その人が角を曲がろうと

やってくるのが見えるや否や

 

にじんでくる熱いものを

こらえながらその人に向け

手を振っている新たな透明

 

(雨粒ははるか上空で

 その後、光そのものとなり

 遮るもののない

 誰もいない場所に消えていった)

 

 

透明:新嶋樹.pdf
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