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「詩3篇」:る

あじさい泥棒

六月のむぐらの中で花咲くことが色褪せてい

る、と見えないミツバチらが羽音をたてなが

ら相談しているのだ、もっと近く、それが愛

じゃないだなんて誰が言ったの? 女はそう

いってタバコの火を消した、暴力的に、もっ

と暴力的に花咲くべきなのだ、と、女がドア

を勢いよく閉めたときにそのことに気付く、

例えば、あなたと関係をもったことがわたく

しと、あなたの隠された過去との、ひとつの

約束として、花咲くように

 

計算されつくした数式の答えのようにベッド

に横たわる女の尻の肉に、一匹の蝿がとまっ

ている、まだ死んでいない、と呟くわたくし

の口からミツバチらが溢れ出して、ベッドを

覆い隠してしまう、まだ死んでいない、ピン

ク色の舌に噛み付くと悲鳴のような嬌声をあ

げる、まだ死んでいない、ミツバチらが女の

穴に蠢いている、まだ死んでいない、あの六

月の花を摘むように、指先が雨露に湿る

 

六月の雨の中で、女の尻の肉にとまる一匹の

蝿だけが秘密を帯びている、まだ死んでいな

い、そう呟いて、女に肉を押し付ける、暴力

的に? そう暴力的に花咲くべきなのだ、と

、飛び去った蝿の軌道を目で追う、生命だ、

と、嘆息をして、雨のむごたらしく降る外を

見つめる、まだ死んでいない、女は規則的に

嬌声をあげる、まだ死んでいない、ミツバチ

らはとっくに息絶えている、まだ死んでいな

い、もっと暴力的に花咲くべきなのだ、まだ

死んでいない、あの六月の花を摘むように、

まだ死んでいない、指先が雨露に湿る、まだ

死んでいない、けれど、あの六月の花を盗ん

だのは誰? と、寝返りを打つ、あなた、と

、わたくしは、確かに、減少している

小鹿を産む

両手にスーパーマーケットのビニール袋をぶら下げた、小太り、中年の女性が雨宿りで入ったバスの待合室の中で小鹿を産む。生まれたと同時に小鹿は神の生誕であるかのごとく光り出して、あたり一面その光に包まれたとき、近くの公園で骨折した左手をかばいながら木に結びつけた縄跳びを跳んでいる女の子が着地したと同時に小鹿を産む。縄をまわしてい女の子も一緒に跳んでいた女の子も驚いてしまってあれよあれよのうちに小鹿を産む。その一部始終を車の窓から見ていた主婦は幼稚園に子供を送る途中に、ビーチボーイズじゃなくて嵐をかけてよ、と言われて小鹿を産む。光が増していく。保母さんは子供と小鹿を託されて途方にくれたまま平日にも関わらず家で寝ている彼氏が、昨晩旅行の計画を立てている途中に、俺たち何処にも行けないよな、と言ったことを思い出して小鹿を産む。出勤途中のOLが空から降りてきた光を見つめて、綺麗ね、と呟いて小鹿を生む。光は氾濫する。

 

そうして氾濫した光の中で小鹿たちは雨にもかかわらず微かな風をかぎ分けて風上を目指す。やわらかに光を伴った毛をなびかせて、草食動物のおだやかな目ですれ違う人たち全てを見下すように、光に包み込んで、小鹿たちは行進をやめない。包み込まれた人々は小鹿を産む。一点に集中していく、小鹿が産まれていく、日本中のあらゆる女の胎内から、そして風上を目指す。一点に集中していく。光は収斂をはじめる。

 

やがて始まりの風に辿り着いたものたちから順番に光の粒となり空へと還っていく。ある一点から、光は限界を超え、光の粒子になって、雪が逆さまに降るように、空へと還っていく。

つゆの日

あじさいさん、綺麗な

羽が生えてしまいましたね

わだかまることもなく

溶けていく

二つのシンプルな氷みたいに

透きとおるだけの

午後でした

 

あじさいさん、綺麗な

歌であろうと思いますよ

感傷的なだけのギターと

全然本質的じゃない声で

ただただ

漂うだけが

お似合いの

 

そして振り向きざまに

綺麗な

満開の星空

分かち合ったのは

だれのため?

そんなふうに

問う口をすすぐためだけに

通り過ぎた

きらめきのような

つゆの日