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「キノシタとわたし」:深街ゆか

 

ようするに きのうおぼえた英単語が 

 

涙腺から 鼻孔から こぼれおちて 

 

つまり 躓くとわかりきっている 

 

( cling /ground/development ) 

 

わたしたち 親友になろう 

 

あそび半分で 飾りつけるように 

 

わたし キノシタの机の上に砂のお城をつくる 

 

キノシタは わたしの口内に鳩をはなつ 

 

いつか 不意に消える 

 

砂のお城を 鳩がついばむ 

 

それが故意だったとか事故だったとか 

 

もう 手遅れの 

 

指先でなぞる とおあさの海 

 

安全ピンで刺せば破裂するような足取りで、つぎの曲がり角を曲がったところにある八百屋の二階でキノシタは、食物を飲み込んだ身体を衣服に身を包んで暮らしている、ということのよろこびを誰かに与えて、親指ほどにつまらない皮膚の模様が約束に変わる、きのうキノシタとわたしは川沿いを歩いて、満月の夜に撮ったクラス写真についてはなした、月が水面でゆらゆらと揺れて、水鳥がそれをついばんで、もう原型をとどめてないのにどうしてそれとわかったのだろう、いつか迷いが平然と公道を歩くようになる前にいつか、柳の木がふたりを隠すところで、キノシタとわたしは前足で爪を立てて抱き合って、掴んで離してを何度も繰り返して、後ろ足ではそれを恥じるように互いを見てみぬふりをして呼吸を整える、荒削りの、安心を撫で回す、ふたつの、分裂した、液状の恋を映画で見たことがあってそれに憧れていた、ふたり、キノシタとわたしは思い出したようにさよならと言って、器用に前足と後ろ足をあやつって帰宅する 

 

川沿いの草花をざわつかせたのは 

 

雨が降ることをにおわせるような風 、

 

 
 
詩「キノシタとわたし」深街ゆか.pdf
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