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「詩3篇」 る

ワイパー

 

こめかみにチェルシーを装填したから

引き金をひいたらとても素敵だ、なんて

そんな聖なる人みたいな真似をしないで

 

僕のあだ名はワイパーだった

ワイパー的な動きをするからワイパーだった

ワイパー的な動きってなんだよ、ってきいても

そんなん誰も知らんかった

 

指でピストルの形を作る

君の、その、聖なるものっぽい涙を

ワイパー的な動きで、とか

言いそうになったら引き金をひいていい

 

現実は果てしなく残酷でした

その夜、聖なるものっぽいダイアモンドを

君の指に嵌めることによって

君は聖なる真似ごとをせずに笑った

 

そして君が極めて個人的に死んだ朝に

極めて個人的に鶏が鳴いていて

そのうちのなん羽かがチャックベリーで

極めて広大なはずの朝という空間で

いつまでもいったりきたりしているってわけ

 
 
 
 
 
蝸牛
 
たくさんの蝸牛が零れてしまった
飲みかけのホットミルクの熱いため息が
角膜を曇らせるから、ゆるゆると
水よりも少しだけ硬いものになりながら
フローリングに右手の中指が垂直に着水した
 
そのまま肩甲骨まできれいに輪郭を失ったとき
冷たい、と感じた
わたしは、ではなく、わたしを。
その微細な振動で机から転がり落ち
視神経の裡、蝸牛の内臓が詰まった殻が骰子のように
転がり、止まった、誰かの運命を決めるみたいに
 
「それは予め決まっていることですので」
そういう観念がわたしを無理やりに律動させている
散らばった脳みそが冷たくなったフローリングの上
ひとつひとつが水銀のように孤立し、そう思考している
散らばった表情が、まるで赤の他人の
資産運用の話を聞かされているときみたいに
しらけて微笑んだり、強張ったりして
 
それらはひたすら零れた蝸牛を掻き集めている
それは予め決まっていることだと言わんばかりに
それぞれが律動し、小さく/大きく纏まってゆく
剥き出された鼓膜に蝸牛が這い出したとき
ひとつの声帯と、もう半分の声帯が蠱惑的に身を捩る
 
蝸牛を囲繞するそれらの内部で
蝸牛もまたひとつに纏まってゆく
それはやがて自立し、冷たい、と発声する
カシューナッツを飲み込むような簡単な素振りで
フローリングに転がり、頑なに止まった骰子を
飲み込む、喉の奥であえかに痛みが伝導した
 
その痛みを和らげてしまうために
冷めてしまったミルクを飲み干す
マグカップの傍でたくさんの殻が転がっている
片付けるには眠すぎたので、そのまま照明を落とし
寝室へと向かった
 
 
 
 
はんどん
 
もう少しだけ待ってと言った
世界を
じゃなくて返済を
ところでアンコちゃんはどうしただろう
窓ガラスが割れている
割れているからよく聞こえる
世界が
じゃなくて返済が
わたしを待ってくれないこと
 
椎の実とそのほかの食べられないドングリを
選り分けながら
ピン、と背筋を伸ばして
アンコちゃんは椎の森へ消えた
わたしはドングリを拾った
椎の実の見分け方をしらなかったから
ときどき苦い顔をしていた
 
ヘミングウェイは『日はまた昇る』の
蝦をえんえんと食べるところが好きです
理由ですか?
蝦はだって、食べられるじゃないですか
それこそえんえんと、えんえんと、
食べられない蝦なんてないくらいえんえんと
 
どんぐりころころこーろころー
って歌しってる?
返済も
じゃなくて世界も
蝦だけ食っていられれば、とか
ひとごとみたいに、考えています
 
アンコちゃんへ
 
今日うちの窓ガラスが全部割られました。
ガラス片の散らばり具合から判断するに、
うちの馬鹿息子ではなく、取立てが、
割ったんだと思います。
ちなみにうちにエスパーはいません。
 
ところでそちらは元気でしょうか。
死ぬとやっぱり輪廻とかするんですかね。
それとも魂ごといなくなってしまったんでしょうか。
だとしたら少し寂しいです。
わたしは相変わらずときどき間違えてドングリを食べて
苦い顔をしたりしてます。
 
 
 
 
Bonus track
 
怪物くん
 
背の高い葦を通り抜けて
白い菊花を運んできたのは
この風のしわざか、と
頬にそよ吹く冷たい5月
 
あんなおどろおどろしい沼地の横に
夢みたいな白い草原が咲き乱れて
その往来を閉ざす葦は
いじわるな老婆みたいでした
 
昔っからあの沼には
何かこの世ならぬものが住んでいるって
お母さんも、お婆ちゃんも
いっていたけれど
 
わたしは白いフランス菊の横に腰を下ろして
その沼の怪物のことを思う
この花のことを思う
わたしの恋のことを思う
 
例えば
この草原がさよならさんで
あの沼地がおやすみさんで
二人は同じ夜を眠れないとしたら
 
葦の隙間からもう一度一条の風
通り抜けて白い花を揺らした
花びらが一つだけほつれて
青い空の彼方にすいこまれていく