twitter文芸部のつぶやき

フォロワー募集中!

オフィシャルアカウント

部員のつぶやきはこちら

現在の閲覧者数:

「詩4篇」 る

「オートマタ」

 

椅子に座ったら(壊れてしまう

さよならを明け初めて

知らない土地に(今日も雪が止まない

(ルージュに濡れた口元に

仄かに白く灯るあなたの(温かい

吹雪のような(抱擁にくたびれた

 

これからのわたしは(壊れてしまう

雨が止まない)合鍵という言葉の

壊れてしまう(本当の意味を

(さよならを明け初めて

知るのだろうか(意味も無く

差し出された(窓の外には

 

降り止まない(雪の合間に

射し染める月明かりが

潰えていく歳月を選びながら

次第に透明になっていく

(助けてください、転びそうな笑みの中から

(助けないでください、転びそうな

 

寝っころがったら(壊れてしまう

さよならを明け初めて

(輪郭を求めています

フランス人形(青い瞳

金色の髪からぽろぽろ(零れ落ちる

わたしを繋ぎとめていた(ゼンマイのような

(なみだのような

 

 

 

 

「波打ち際の人魚のために」

 

踊り子になりたかった掃除機の話をすると

女の子はいつでも寝てしまうものだと気付いたから

話の続きをすりかえて、僕は

カスタネットになりたかった貝殻の話をしている

 

女の子の寝息がセミダブル一泊3500円の部屋で

ギターの上から二番目の弦みたいな音でなっている

貝殻は高校を出たら東京にいくんだって言う

僕は時々あくびをしながらすみやかに話をでっちあげている

 

ライブハウスの予約をもう一度たしかめていたら

女の子は二回も寝返りをうった

とてもきれいな二回ひねりだったけれど

それは僕から遠ざかる方向で、話は進んでいった

 

貝殻は、掃除機が踊り子になるなら

僕はカスタネットにならなくちゃいけないよな、と

誰に打ち明けることもなく、地元を去ったのだ

ライブのチケットに書いてある名前がよく読めなかった、

ペンギン、と英語で書いてあるところまでしか読めなかった

 

女の子はシングルベッドの範疇を越えて

僕から遠ざかっていった、貝殻は東京という街に着いた

僕はシングルベッドで迷子になった女の子のことを思い出していた

とてもかわいい子だったけど

お金を渡さないといけない女の子だった

 

貝殻もきっと、東京で迷子になると思わない?

と聞いても、女の子はまだギターの上から二番目だった

そして貝殻は迷子になった、もちろん

迷子というのは比ゆ的な意味でだよ

と教えてあげることは忘れなかった

 

女の子はいつもみんな

シングルベッドという概念を越えて流されていくのだった

貝殻は迷子のまま掃除機のところに帰ってきた

掃除機は掃除機で迷子だった、もちろん

迷子というのは比ゆ的な意味でだよ

と教えてあげることは忘れなかった

 

掃除機はシングルベッドの概念を越えて遠い沖まで流されていた

だからさ、貝殻は泳ぐことができないでしょ?

女の子はずっと遠いところで上から二番目のままで

僕の物語だけがむなしく波打っていた

ライブのチケットが読めなかった

だから、貝殻はそこでちゃんとカスタネットになったんだよ、って

眠っている女の子の背中に教えてあげた

 

 

 

 

「夜に」

 

全ての光の中で夜だけが夜であることをゆるされている

申し訳程度に口ずさんだ唄を優しくしてくれるなら

ホッチキスでとめられたような会話をせずに済むなら

 

昨日放り投げた指のしこりが

今日、真っ白な解答用紙になって降り注ぐ

僕たちは真っ白な解答用紙を拾い続ける

スタバでコーヒーを飲みながら

英会話のリスニングをしているOLも

研究室に寝泊りして

工学を研究する院生も

こぞって答えを用意しようとして

はじめて答えるべき問題がないことに気付く

けれど誰も彼もがかき集めている

昨日放り投げた指のしこりを

まるで答えを探すみたいに

 

それは優しい音楽だろうね

それは暖かい暖炉の火だろうね

申し訳程度に口ずさんだ唄を優しくしてくれる

yesでもnoでもない曖昧な相槌だろうね

 

 

 

 

「失踪期のモノローグ」

 

ただ浮遊していくだけなのです この青白い血管から

夜のうすまくの小さい孔を通り抜けるだけの浮力がようやく

まう雪のようにただただ輪郭だけをあいまいにして ただ

その光屑だけをふりまとうような微細なしんどうだけがわたくしであるように

 

呼気の白さと煙草の煙が等しくなり

罅割れた指先を見つめ

そこから孵化した冬

冷たくされた赤蜻蛉が螺旋を描いて

更けてゆく季節

 

それは立方体でしょうか それとも円環をなすのでしょうか

さらさらと崩れ落ちるのでしょうか いままでと同じなのでしょうか

ほどけるままに微かな風に流されるままに穏やかに沈んでゆくままに

あいまいな光への溌力だけを しるしとして 摩擦だけをただわたくしとして

 

埋立地に何万本もの

傘が埋葬されている夢を見る

綺麗な朝が終わった 土の中で眠った 

目覚めた指先にとまった

赤蜻蛉がいつまでも燃えていた

 

全ての傘を

火に焼べてしまえたらいいのに

唯、傘だけが光のなかで

咲かないから